人事管理の現状分析

3.人員構成の分析

 

社員は、企業の競争力を高める源泉であり「どんな能力をもつ人材をどれだけ確保しているのか」を分析し、競争力を高める戦略を策定することが、企業の成長には不可欠です。

 

社員の現状を把握するには、まず社員数やその構成を分析します。社員が多ければ投入されている労働量は多くなるので、その分だけ比例して生産量や売上高も増えるはずです。

 

しかし、近年、派遣社員や契約社員などのさまざまな雇用形態が存在するようになり、又、個人の能力の差によって職務成果に差が生じる傾向も顕著になって、単純に社員の数を算出するだけでは、労働量を正確にとらえられないようになってきました。

 

例えば、1日の所定労働時間数が8時間の正社員と4時間のパート社員では、人数としては同じ「1人」ですが、労働量としてとらえる場合には、パート社員は正社員の「0.5人」分にしかなりません。あるいは、所定労働時間数が同じ正社員同士でも、経験年数や能力によって職務成果が異なるのなら、労働量を正確にとらえる場合には、勤続年数や保有能力などによる区分けを行ったうえで人数を計算する工夫が必要となります。

 

このように実質的な投入労働量を正確にとらえるには、社員数を「雇用形態別」「年齢別・勤続年数別」「部門別・階層別」の3つの視点から社員の現状を的確に把握する分析が必要となります。


1.雇用形態別人員構成の分析

雇用形態の呼び名と定義は、法令などで明確に基準は定められておらず、各企業が独自にそれを定めています。

 

従来、日本における雇用形態は、新卒定期採用や中途採用により、雇用期間の定めのない契約を締結する正社員が中心で、パート社員などの非正規社員は、一時的に業務量が増えた時に採用する補完的な労働力でした。

 

しかし、バブル崩壊後、景気の先行き不透明感が継続する中、多くの企業が正社員と比較して人件費が低く、契約期間を設けその満了時の雇い止めが可能で柔軟な人員調整が可能である非正規社員の雇用を積極的に行うようになりました。

 

一方、労働者の方も若者を中心に正社員と比べて制約が少なく、自由度が大きい非正規社員としての雇用を望むようになりました。このように、企業側と労働者側両方のニーズの高まりから、雇用者の3割程度が非正規社員という状況が続いています。


又、近年、労働人口が減少に向かっている中、家庭の事情などで働き方の多様化を希望する労働者が増えており、企業もこの層の勤務を確保できる雇用形態を設定しています。

 

非正規社員数の増加に伴い全社員に占めるその割合も高まり、中には正社員と同じ働き方で同じ仕事を担当する非正規社員も出てくるようになりました。

 

パートタイム労働法の法改正も頻繁に行われ、非正規社員の短時間労働者については、職務内容と人材活用の仕組みが正社員と同様の場合、正社員との間で差別的な取り扱いを行うことが禁止されています。又、契約社員については、平成30年4月に到来する「契約期間5年を超える者から希望があれば、無期契約に転換しなければならない」という無期転換制度の法改正もありました。今までの、非正規社員=必要なときだけ正社員の補充=単純作業・低コストという図式が単純に成り立たなくなっています。

 

今後は、企業の事業や職務の特性に応じて「期間の定めのない契約を締結する社員を活用する方がよいのか」「労働時間が短い社員を多く雇用した方が効率的か」などの観点から検討を行い、自社内の雇用形態の構成を考えていくことが必要です。


  雇用形態の種類と一般的な定義

呼称 一般的な定義
正社員
期間を定めずに雇用される常用労働者で、その事業所における通常の所定労働時間の勤務(フルタイム労働)が原則
契約社員
期間を定めて雇用される常用労働者で、フルタイム労働が原則
嘱託社員 定年後に再雇用された労働者
パートタイマー 期間を定めて雇用される常用労働者で、原則正社員より所定労働時間が短い(短時間労働者)
アルバイト 臨時に、期間を定めて雇用される労働者
派遣社員 派遣元事業主から派遣され、派遣先の指揮命令により労働する者

 

 

2.年齢別・勤続年数別人員構成の分析

自社に在籍している社員の年齢や勤続年数の人員構成パターンによっては、様々な課題が表面化します。

 

 

例えば、人員構成のパターンが、年齢が上になるほど人数が少なくなるピラミッド型なら、人数の少ない中高年齢者が管理職、人数の多い若年層が部下になり、組織を円滑に運営しやすい構造であり。又、給与の高い中高年齢者が少なく、給与の低い若年層が多いことから、年功賃金を採用していても人件費管理の面では当面問題は生じません。

 

 

しかし、ピラミッド型の人員構成であった企業において、終身雇用を維持しつつ、新卒採用が減少してくると、人員構成は釣鐘型になります。この場合、役職不足による中高年齢者のモチベーション低下、給与が高い中高年齢者の増加に伴う人件費総額の上昇などの問題が発生します。

 

 

又、ピラミッド型や釣鐘型の人員構成だった企業において、若年層の離職率が高まり、更に少子化の影響などで新卒採用者数が減少すると、中高年齢者が多く、若年層が少ない逆ピラミッド型の人員構成となります。この場合、釣鐘型で表れた中高年齢者のモチベーション低下や人件費総額の上昇などがより一層問題としてクローズアップされます。

 

 

更に、業績が低迷していた時期に新卒採用を抑制していた企業では、特定の年齢層の社員が極端に少なくなり、くびれた形の人員構成となります。この場合、高齢層と若年層とのつなぎ役が不足し、社内の意思疎通や情報伝達に支障が生じていることが多いです。中堅社員が少ない為、管理職候補者の選択ができないという問題も生じることがあります。

 

 

対策を立てないで事態が深刻になる前に、このような課題の抽出及び施策の検討、又、少子高齢化の進行に伴う労働人口の減少や労働人口の年齢構成の偏りなどの環境変化に対応する人事施策を講じる為にも自社の年齢別・勤続年数別人員構成をしっかりと把握しておく必要があります。

 

 

3.部門別・階層別人員構成の分析

自社の人事施策を検討する際には「どんな職種で、どれくらいの能力のレベルの者を、何人くらい採用又は育成したい(=事業運営において必要な人材が確保できているかどうか)」という具体的な「期待すべき人材像」と「人数」に基づいて検討する必要があります。1.雇用形態別人員構成、2.年齢別・勤続年数別人員構成を行う場合には、併せて部門別・階層別人員構成の分析を行うと自社に必要な具体的な期待すべき人材像と人数が確認できます。

 

又、成長性が高く、人材を重点的に配置したい事業、あるいは、役割分担の漏れや重複があるとされている職務について、実際に配置されている社員の数が適切なのかなど、現在の配置社員数についての把握も必要となります。

 

 

4.人材の移動に関する分析(入社・退職の分析)

欲しいときに欲しいだけの人材を雇い入れることができ、又、幹部候補となる人材を自社内で長期的に確保し、会社の成長に貢献してほしいと殆どの企業は考えます。

 

しかし、実際には、欲しいときに必要な人材を確保できるとは限らず、又、定着率を高めたくとも退職者が出てしまう場合があります。これは、労働市場という外部要因が関係しているからです。同地域の同業他社も人材を採用したいので、他社より高い水準の労働条件を求職サイトに提示することによって人材の獲得競争が生じます。人材の獲得競争が生じると、必要な人材の確保が難しくなります。

 

仮に、必要とされる求人数を募集の都度確保できていたとしても、企業が必要な求人数をコントロールしていなければ、つまり、人材面で生じた「穴」をたまたまその都度「埋めることができた」だけにすぎない状況であり。これでは、募集や採用後の教育に係る費用や手間がその都度余分に発生している状況でもあり、長期的に必要な人材を確保できている状態には近づけません。

 

長期的に必要な人材を確保できるようになるには、「採用方法に問題はないか」、「退職者が多いことで組織管理上の支障が生じていないか」、「退職する理由は何か」など、自社の入社及び退社の要因を探る必要があります。

 

そこで、自社内の入社者数、退職者数の整理をし、社外の労働市場の状況と照らし合わせ、人材確保上の問題が生じる要因を明らかにし、最終的には、今後の採用又は退職者抑制に関する対策の検討が必要となります。